生成AIはコストばかりかかって成果が出ない?

最近、某企業において、こんな話を聞きました。
- 全社的に、生成AI導入した。
- 議事録の作成や、文書作成、オフィス管理など、確かに業務は効率化された
- 社員たちは、もっとAIを活用して、業務を効率化するための勉強会や、プロンプトエンジニアリングの勉強会などを自主的に行うようになった
- しかし、生成AIの利用コストが増加し、利益が減ってしまう結果になった
- 一旦、AIの利用を全社的に禁止した
生成AI導入の失敗あるあるのようなケースですが、なぜ、こんなことになるのかを、整理してみたいと思います。
なお、この記事に関する免責事項は、末尾に掲載されているリンク先に記載されていますので、ご確認ください。
先に結論だけ
この話にフォーカスした場合ですが、
目的を見誤っているか、導入計画を立てていない
- 生成AIを導入する目的を、ちゃんと整理し、明確化していない
- あるいは、目的は明確だったとして、導入コストが比較的安いから、段取り考えずに見切り発車で導入した
と推測します。
生成AIは業務の「時間」を短縮しますが、そのままでは「利益」は増えません。理由は単純で、空いた時間が売上や支出削減につながらない限り、AI利用料だけが積み上がるからです。
成果を出す鍵は、短縮した「時間」を「お金」に変換する設計です。この変換スキームを計画することで、AI導入の費用対効果をコントロールできます。
生成AIが削減するコスト
まず、生成AIは、何してくれるものでしょうか?冒頭にあげたものも含め、
- 音声データからの文字起こし、会話を整理して、議事録を作成
- 趣旨を伝えて、文章を作成
- 目的を伝えて、広範な情報を調査、分析し、レポートを作成
- 目的を伝えて、アイディア出し
- イメージを伝えて、画像を生成
- 目的を伝えて、プログラムソースコードを作成
などなど、挙げたらきりがないですが、「人間が時間をかけてやっていたことを、比較的短時間でやってくれる」のが、生成AIなのです。
つまり、生成AIは、「時間」というコストを削減してくれます。
また、膨大な情報を扱ったり、あるいは、それを何度も繰り返すのは、人間には精神的負担が生じます。生成AIは、この「精神的負担」というコストも削減してくれるでしょう。
一方で、コストと言うと、「お金」が挙がりますが、生成AIは、直接的に「お金」を削減してくれません。利用料/ランニングコストがかかるので、むしろ「お金」のコストは増大します。
生成AIが直接削減した「時間」、「精神的負担」を、「お金」に変換するスキームが無ければ、生成AI自身の利用料のコスト増に負けて、利益が減少してしまう結果になります。
お金に変換するスキーム
分かりやすい話としては、削減した「時間」を「お金」に変換するスキームです。
1日100時間分の業務量を、10人で行っていた場合、1人2時間/日の残業を慢性的に行っている状況になります。
この状況で、生成AIの導入により、1日20時間分の業務が削減できたとすると、慢性的に行われていた残業がなくなり、残業代(お金)が削減できることになります。
時間の削減がお金の削減に変換されたわけです。
では、この時間削減をさらに推進して、1日40時間分の業務を削減したとするとどうでしょう?
法定労働時間(10人×8時間=80時間)の中の時間を削減した場合、海外では、レイオフやリストラなどで、人員そのものを半分に減らして、人件費(お金)を削減します。
しかし、日本では、解雇規制があり、人員そのものをすぐに減らすスキームは使えません
(※話を簡単にするため、フルタイムの正社員のみで業務を行っている前提としています。アルバイト、パートタイマー等の一時雇用や、外注費は、「すぐに減らせる人員コスト」となります。)。
すると、社員は1日4時間分の空き時間ができ、その空いた時間を使って、更なるAI活用やプロンプトエンジニアリングの勉強会をするに至ったわけです。
別の変換スキーム
では、日本ではどうやって、削減した「時間」を「お金」に変換すればよいでしょうか?
コスト増の回避と、レベニュー(収入/売上)拡大の2つがあります。
コスト増の回避
コスト増の回避は、従来通りなら発生するであろう未来の「お金」を、先送り/不要化することです。つまり、未来における「お金」のコスト削減です。
例えば、生成AIによる業務に係る時間の削減によって、
- 増員回避:本来必要だった採用を減らす/先送りする
- 外注費の抑制:本来必要だった外注を減らす/止める
- 教育コストの抑制:人員の立ち上がりを時間短縮(オンボーディング、ナレッジ検索、過去事例の要約など)し、教育に必要な人的コストを抑制する
ポイントは、「生成AIで短縮した時間」を「余暇」にしないことです。
直近の未来にコストが増えそうな業務に優先的に投入し、定期的に「回避できた支出(採用見送り、外注抑制など)」を見える化します。
少なくとも、回避できた支出≧AI利用コストの状態を維持できれば、生成AIは「コスト増の原因」ではなく「コスト増を止める投資」として評価できるようになります。
レベニューの拡大
レベニューの拡大は、既存事業の拡大でも良いですし、新規事業の立ち上げでも良いでしょう。
時間削減によって浮いた人員リソースを、レベニューの拡大に投入して、稼ぐお金を増やすことで、「時間」を「お金」に変換するのです。
浮いた人員のスキルや経験にギャップがあり、すぐにレベニューを拡大することは難しいかもしれません。
そのため、世間では、「リスキリング」というキーワードをよく耳にするようになっており、生成AI導入にあたっての計画、段取りが重要になります。
- 生成AIの導入により、何のコストを、どうやって、どれくらい削減するのか、それをどのようにお金に変換するか、構想を描く(ブループリント)
つまり、生成AIを導入する目的を、ちゃんと整理し、明確化する - 構想を社内に共有し、関係者に生成AI導入の目的を認識してもらう
- 生成AIの導入を開始する(なんとなくAI導入してしまった場合でも、上記1→2を後追いで実施することで、全社禁止に至らず、継続利用も可能になるでしょう)
- 構想上の各フェーズに応じた費用対効果の、継続的な評価を開始する
- 構想を具体的な計画に落とし、レベニュー拡大を担う人員を選定する
- レベニュー拡大を担う人員のスキルや経験の現状と、計画実現のために必要なスキルや経験のギャップを把握し、リスキリングを計画する
- レベニュー拡大に向けたプロジェクトを開始する
なお、生成AIは、学習の伴走者として、リスキリングにかかる時間も削減してくれる可能性があります。
生成AIに限った話ではない
ところで、過去にも、ICTブームやDXブームでのITシステム導入とそれに伴う業務改革、という文脈で、似たような話があった気がします。
ITシステムの導入においては、初期投資とランニングコストが大きいため、企画フェーズにおいて、ブループリントとしてIT化構想とROI(投資利益率: Return Of Investment)見積を行い、どうやって、どのくらいの期間で投資を回収するかを、計画しますよね。
生成AIの導入にあたっても、企画フェーズにおいて、「AI導入構想」として、ブループリント作成とROI見積をして、その構想を社内で共有する必要があるでしょう。
これを怠って、無策でAIを導入すると、人それぞれで目的も方向性もバラバラになり、冒頭のような状況に陥る可能性が高くるのです。




